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【お知らせ】

交通事故の被害者のための保険~人身傷害特約について~

 モータリゼーションの進展とともに交通事故も増え,1970年代には交通事故が多発し,数多くの紛争と判例が生み出されました。それとともに,交通事故に備えるための保険制度も発達し,多数の保険会社から各種の自動車保険が発売されています。
 自動車保険の基本は「賠償責任保険」であり,保険契約者・被保険者(以下,「被保険者」といいます。)が加害事故を起こした場合にその賠償責任を填補する保険制度です。しかし,その自動車保険の特約として位置づけられる「人身傷害補償特約」は,被保険者が「被害者」になった場合(過失の一部がある場合も含みます。)に備える保険であり,「傷害保険」の一種と位置づけられています。
 ところが,この人身傷害保険には法律上多くの問題があり,ここ10年程,多数の裁判でその問題点が争われていました。(なお,人身傷害保険の詳細は,各保険会社によって異なっており,具体的な問題を検討するには「約款」と呼ばれる契約内容を定める書面を確認する必要があります。)<br /> 問題点の1つ目は,人身傷害保険金の支払基準に関するものです。これについては,約款所定の基準で支払うと約款に規定されているのですが,裁判基準で支払われるべきだと争われたこともありましたが,現在ではあまり問題になっていないと思います。
 そして,より大きな問題点は,被保険者に人身傷害保険金が支払われた場合に,被保険者が加害者に対して有する損害賠償請求権のうち,どの部分(金額・範囲)が人身傷害保険金を支払った保険会社に移転するのかという問題です。人身傷害補償特約について保険会社は,「ご契約の車に搭乗中の方が,自動車事故で傷害を負った場合,過失割合に関わらず保険金が支払われます。このため,相手方との面倒な示談交渉にわずらわされることがありません。」というような説明をしていることが多いのですが,実際のところ約款には,人身傷害保険金を支払った限度において被保険者の加害者に対する損害賠償請求権を取得(「代位」といいます。)すると定められており,被保険者が加害者からの賠償金と人身傷害保険金の両方を受け取ることはできない仕組みになっています。
 ところが,加害者に対する損害賠償請求権の裁判上の算定額と,保険会社の人身傷害保険金の算定基準が異なっており,通常裁判上の算定額の方が損害額が高くなります。そうすると,被保険者にも過失のある交通事故の場合,加害者から受取る賠償金の額と保険会社から支払われる人身傷害保険金額の合計額が,実際の損害額を下回る場合があり,この点をどう解決するかという問題が生じていたのです。
 この問題点について,平成24年に2つの最高裁判決が下され,「人身傷害保険会社は,保険金請求権者に裁判基準損害額に相当する額が確保されるように,人傷保険金の額と被害者の加害者に対する過失相殺後の損害賠償請求権の額との合計額が裁判基準損害額を上回る場合に限り,その上回る部分に相当する額の範囲で損害賠償請求件を代位取得する」という判断で統一されました。一般の方には少し難しく感じられるかも知れませんが,簡単に言うと,人身傷害保険金を受取っており,かつ被保険者の方に過失割合がある事案でも,加害者から支払われる賠償額と人身傷害保険金の合計額が実際の損害額を上回らない限り保険会社は代位できないということです。
 人身傷害保険は契約者自身の被害に備える上では有用な保険ですが,実際に事故が起きた場合にはこのような少し複雑な問題が生じる場合があります。事故に遭われた場合には,迷わず弁護士にご相談下さい。

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