平成27年9月17日,沖縄県警察学校で,沖縄県下警察署の生活安全部門で生活経済事犯捜査を担当する警察官の方に,営業秘密侵害罪(不正競争防止法)について講義させて頂く機会がありました。
近年,企業の営業秘密が漏洩し莫大な損害が発生する事件(新日鐵から韓国ポスコに方向性電磁鋼板に関する営業秘密が漏洩した事件,東芝から韓国ハイニックスにフラッシュメモリに関する営業秘密が漏洩した事件,ベネッセ顧客名簿漏洩事件,等)が多発しており,また沖縄県下でも営業秘密侵害の事案が発生しているようで,こういう講演の機会を設けて頂くことになりました。
今回,不正競争防止法の営業秘密侵害の刑事罰に絞って解説させて頂いたのですが,実は今年の7月に改正法が国会で成立しており,来年には施行予定です。そのため,従来の不正競争防止法の解説書には記載のない事項が多くあり,情報収集と資料の作成で当職も勉強させて頂きました。
今回の改正では,刑事罰に限っても,①罰金刑の引上げと海外重科(個人の罰金の上限:国内犯2千万円,海外重科:3千万円,法人の罰金上限:国内犯5億円,海外重科:10億円),②非親告罪化,③営業秘密使用物品の譲渡・輸出入等行為の禁止・処罰,④未遂処罰,⑤転転流通した営業秘密の転得者処罰規定,⑥クラウドなど海外保管情報の取得・領得行為の処罰,といった多くの事項について,処罰範囲の拡大・厳罰化する改正が行われており,営業秘密侵害に対する処罰の網を広げ,厳罰化することで,企業の営業秘密の流出(特に日本の産業競争力を削ぐ海外への流出)を防止しようという立法者の意思が伺えます。
前述した新日鐵事件の民事裁判については,先日,新日鐵がポスコから300億円の和解金の支払を受けるという内容での和解が成立したとの報道がありました。また,東芝とハイニック氏の民事裁判でも,東芝がハイニックスから約330億円の和解金を受取る内容での和解が成立しています。ハイテク分野の大企業の営業秘密侵害事案になると,損害額の桁が莫大です。
しかし,中小企業でも,特定の分野でキラリと光る独自の技術・ノウハウを持つ企業は沢山存在します。ですので,今後は中小企業からの営業秘密侵害事案についても,不正競争防止法違反の事案(民事・刑事とも)が増えるのではないかと予想しています。